東京出身
個展
グループ展
その他
受賞
所蔵
山梨学院大学
三菱地所
升谷真木子が描く世界には、彼女の日常生活の断片的な記録が詰まっている。美しい色彩で描かれた、普段目にするありふれたものたちが画面の中で踊っている。 今までは、彼女が幼い頃から外に出る時に、恐らく肌身離さず持って歩いていたハンカチ、あるいはスカーフにその記憶の「季節」「時間帯」「香り」を刻みつけるが如く正方形のカンバスを用いることが多く、その画面はスカーフの柄のようにパターン化されているものが主であったが、今展にて発表する新作シリーズでは、さらに「その時の光を再現し、新たな情景を紡ぐ」ことに挑戦している。
記録ではなく、記憶の断片を描く。
升谷真木子さんの作品には、スカーフを思わせる正方形のキャンバスに描かれたシリーズがある。決して特別なものではない、日常を彩る馴染みの品々を、ある時は繰り返し、ある時は重ねて描くその画面には、彼女の眼差しが追った二つのサイト=sight(視界)とsite(場)が、組み合わされ構成されている。
例えば、夏の日の庭先にあったであろう、朝顔の鉢とシャベル、彼女の日常と共にある、靴やベルトやワードロープ。日々の満員電車を連想させる、ネクタイとつり革も、画面を飾る画題となる。並列から、より複雑に組み合わせることによって、身近なるものをパターンにし、デフォルメして構成する。結ばれたスカーフから全体の図柄ではなく部分が顔を出すように、彼女の作業は記憶の断片を抽出しているように映る。
そして升谷さんは見ることに伴って湧き出した感情や印象、気配や香りのような形なき存在も含めて、描き留めようとしている。彼女の新たな試みは、日常から抽出した形を繰り返し、パターンとして描いてきた実践から、特定の時間、特別な光といった個人的な知覚体験を、絵画を通じて視覚に焼き付けること。そこで手彫りのスタンプを、記憶の断片の象徴としていくつも描いた画面に押して、現実のシーンとは異なる層にある風景を立ち現せる。自身の記憶に始まる私的な世界観の描写は、外界と繋がり、それに反応する媒体としての作品に展開を始めている。
神谷幸江(Director of Gallery, Japan Society, New York)