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2021年7月29日から2021年10月31日まで
第16回ART PLATFORM TOKYO主催@ANA InterContinental Tokyoは、ただ、平野淳子、油野愛子の三人展「からだと、その他」(Body, et cetera)をお届けします。
コマーシャル写真でも活躍するただは、アート作品を通して「写真とは何か」を問い続けます。今回の展示作品は、取り壊しが決定した旧国立競技場を撮影したシリーズの一部です。ただがフィーチャーしたのはアスリートや彼らに声援を送る観客ではなく国立競技場という器です。消えていくものを記録に残すという行為には、理由も理屈も要らない、とただは言います。彼は仕事でポートレイトを撮影しますが、ポートレイトもいずれ消えていく人間のある瞬間の記録と言えます。彼はポートレイトの面白さは被写体よりも、時の流れと共に変化する見る人たちの受け止め方にあると言います。感傷を排し、競技場をまるでからだのパーツのように淡々と撮影した彼の作品に、今の人々は何を見るでしょう。
ただが旧国立競技場を撮影した1年半後、平野淳子も同じ場所を撮影し始めました。彼女は、墨絵、版画、写真とジャンルに囚われない自由な手法で独特な和の世界を描き出す作家です。今回は新国立競技場が建設されていく様子を収めた「ゲニウス・ロキ」(土地の精霊)のシリーズを中心に展示します。かつては武蔵野の草原だった競技場の地。町が作られ、江戸の大飢饉を機に寺が建ち、維新後は練兵場になり、関東大震災にも屈せず明治神宮国立競技場が完成し、戦時中には学徒出陣壮行会で若者達を見送り、戦後「国立霞ヶ丘競技場」が建設され1964年には東京オリンピックの舞台となりました。重機が並び、徐々に新国立競技場がその姿を現していく様子をシャッターに収めながら、彼女は「土地の記憶」に思いを馳せます。
京都を拠点として活動する油野愛子は、彫刻、インスタレーション、平面、と多彩な分野で作品を発表している新鋭作家です。美大で彫刻を学び、人間の身体の重量感や感触の表現を十分に熟知している油野が描くのは人間のシルエットです。鑑賞者はそれが身体だと推測できるのですが、性別、人種、感情、動作などは分かりません。雑誌などからランダムにモチーフを選び、様々な素材を重ねては剥がす工程を繰り返すことにより、モチーフの外的特徴は失われ、他人という実体が削ぎ落とされていき、最終的には他人を見つめる「自分」のみが残ります。他人を見ることにより自分の内包を見つめる自分に気づいた、と彼女はいいます。今回の展示で、油野は唯一「からだ」をモチーフにした作品を展示していますが、彼女もまた可視化できない独特の世界を表現しています。