“私が夢みるのは均衡が取れた、純粋で安らぐ芸術である。不安を与えたり、気が滅入るような主題ではなく、ビジネスマンから文学者まで神経を使う仕事についている人たち全てにとっての精神安定剤、例えば、体の疲れを癒す心地のよい肘掛け椅子のような芸術である”
―アンリ・マティス『画家のノート』
もともとマティスが芸術家を志したのは、大病から回復中の20歳の時でした。彼に取ってのアートとは心身の癒しであり、いわゆる過激な政治的なメッセージを含んだり、小難しい作品ではありませんでした。いつまでも心を委ねられる「肘掛け椅子」だったのです。
作家が創造した世界に心から浸ることのできる1枚の絵。時によって、それは静かな風景画、色彩豊かな複雑な抽象画、あるいは不思議な人物画かもしれません。コロナ禍で不安な状況が続いているからこそ、純粋で、自分のすべてを包みこんでくれるアートを人々は欲するのでしょう。
今回の展示は、アートに造詣をお持ちの方々にもお願いして、気になっている若手作家、もう少し知られてもいいのではと思われる作家たち5人と1アートユニットの作品を推薦していただきました。少しずつ賑わい取り戻している六本木・赤坂界隈を行き交う人々に、一枚でもお気に入りの「肘掛け椅子」を見つけていただければ幸いです。